今年1月13日(アメリカ・ニューヨーク時間)、ショッキングな事が起きてしまいました。世界のトップ・アーティストとしても知られる、テナーサックス奏者のマイケル・ブレッカーが白血病の為に亡くなったのです。享年57歳という事ですから、まだまだこれからという時なのに…とても残念です。 彼は2005年に骨髄異形成症候群と診断され(いわゆる、血液の癌ですね…)、全ての音楽活動を休止にしたのは知ってましたが、このような結果になってしまったことは真に悔やまれてなりません。 マイケル・ブレッカーは言うまでもなく、人気・実力共に現代ナンバー1のプレイヤーです。兄のランディー・ブレッカー(トランペット奏者)と共にブレッカー・ブラザーズとしてデビューし、これま多岐に亘る音楽活動を送ってきました。ハービー・ハンコックやパット・メセニー等、大御所ジャズ・ミュージシャンのアルバムに参加する一方で、スタジオ・ミュージシャンとしての活躍も幅広く、それは日本のSMAPや吉田美和のアルバムにまで参加されています(その数、軽く千枚を超えているらしいです)。 今回はその追悼の意味を込め、彼が参加しているアルバムを1つ取り上げたいと思います。

マイケル・ブレッカーの参加しているアルバムで、このCDを取り上げる人は数少ないでしょう。これは、以前紹介したジャズピアニスト、チック・コリア〔好きなCD紹介 1.参照〕のアルバムで、『Three Quartets』という作品ですが、チック・コリアの作品としても“この1枚!”とあげる人も少ないと思います。 恐らくそこまで有名なアルバムではないですが、内容はとても濃いものになっています。アルバムタイトルの『Three Quartets』というのは、“Quartets No.1”、“Quartets No.2”、“Quartets No.3”という3つの演奏がアルバムに収められているのが由来で、全てがチック・コリアのオリジナル作品です。難解なコード進行と超絶なアドリブの嵐で、当時のジャズの最先端を感じる事が出来ると思います。 1970年代、チック。コリアはリターン・トゥー・フォーエバーという自己のフュージョン・グループ(何と言っても Spain が有名ですね)を中心に活躍していたのですが、このアルバムが発売したのは、そのグループが1970年代末に自然消滅的に解散してから2、3年後のことです。当時の活動歴から、チック・コリアはエレクトリック・ピアノ奏者というイメージを持たれていたらしいのですが、『Three Quartets』では全編アコースティック・ピアノによる演奏です。やはり彼の本質は4ビートジャズ…、生ピアノ演奏による所が大きいのだと思います。また“Quartets No.3”は、1曲目はデューク・エリントンに、2曲目はジョン・コルトレーンに捧げられている事からも、メンバーが皆ジャズと真剣に向かい合っている…という姿が窺えるというものです。 ところで、このCDは誰にでも聴きやすいものかと言うと、実はそうではないかもしれません。個人個人のレベルはかなり高いのですが、これを一般の方が理解するのは、少し難しいかも…とは思ってしまいます。実際、自分も初めて聴いた大学生の頃は、ただただ身を任せて聴いていた…という感じでした。しかし深く聴いていくと、何回聴いても格好良い演奏…と思わせてしまうくらい、不思議な魅力があるのです。 チック・コリアにばかり目が入ってしまいましたが、ここでのマイケル・ブレッカーの腕も尋常ではないです。この時、まだ若干31歳だったわけですが、誰もがそのプレイには目を見張ります。このアルバムは、予定では3つのカルテット曲を収録する予定だったらしいのですが、あまりにもレコーディングが順調に進んだため、適当に曲を選んで4曲追加したのが、アルバムの5~8曲目になります(…オリジナル版には収録されていません)。きっと、レコーディングも終始リラックスした雰囲気だったのではないでしょうか。ここでも、一流の余裕さが垣間見れてしまいますね。
…もし機会があったら、このアルバムでなくても良いので、マイケル・ブレッカーの音源を聴いて頂きたいです。恐らく誰しもが、惜しい人を亡くした…と思う事でしょう。テナーサックス界では、その奏法から、“ブレッカー以前”と“ブレッカー以後”…とで分けて考えている人までいるくらいです。それぐらい偉大な人だった…と言っても過言ではないと思いますね。
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